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渚に、彼女はいた。
真冬だと言うのに上着は着ずに、白いパーカーとジーンズ。
長い黒髪を風に靡かせて、アコースティックギターを抱えて胡座をかいて座っている。
別に、ギターを奏でているわけでも、歌っているわけでもない。
ボーッと座って、海を眺めているだけ。
「・・・痛っ・・・」
急に、彼女は下腹部を抑えてうずくまった。
その頬を、涙がゆっくりと流れていく。
「無くなればいいんだ・・・」
流れる涙をそのままに、彼女は両手を首裏に回しネックレスを外した。
片割れのハートが、やけに物悲しい光を放っている。
「・・・こんなもの・・・」
外したそれを睨みつけ、よろよろと立ち上がり海に投げ棄てた。
「もう絶対・・・・・・──」
彼女の頬を、さっき以上に大粒の涙が滑っていく。
「──・・・恋なんて・・・しないんだから・・・」
寂しい呟きは一瞬だけ響いて、すぐに波音に飲まれていった。
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