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「───・・・・・・したか?」
波音の中で微かに声が聞こえた。
低く、少しハスキーなその声に振り返ると、ジャージ姿の、とても背が高く、がっしりとした身体付きの男の人が立っていた。
大学生・・・くらいだろうか、とても大人っぽいその人は部活動のランニング途中なのか、真冬の寒さの中だというのに大量の汗を滴らせている。
「それですっきりしたか?」
呆然としている彼女に、その人はやや茶色がかった髪をかき上げながら一歩ずつ歩み寄る。
「・・・こ・・・来ないでくださいっ!!」
彼女は咄嗟に身構えながら叫んだ。
そんな彼女の言葉に、男性は一瞬たじろいだが、一つ小さな溜め息をつくと、最後の一歩を詰め寄った。
「・・・来ないでって言ったのに・・・」
「怖い?」
尋ねながら、その男性は彼女の横に腰を下ろした。
「・・・・・・」
ゆっくりと彼女の首が縦に動く。
「無理もないよな。ごめんな、震えてるのは寒いからだけじゃないだろう?」
彼は決して彼女の顔を見ようとはせず、ただ真っ直ぐに眼前の海を眺めていた。
「・・・でも、寒いのには違いない。風邪ひくぞ?」
彼は着ていたジャージの上着を彼女の肩に掛けて立ち上がった。
「あ・・・あの・・・」
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