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彼の突然の行動に、思わず顔を上げてしまったものの、切れ長の二重瞼の目が、柔らかく細められるのを見ていたらますます何も言えなくなって、彼女は再び俯いた。
「・・・勿体無いな」
彼の指先が彼女の頬に触れる。
「綺麗な顔が涙で台無しだ。・・・君を泣かせるような男のことなんて、さっさと忘れてしまえばいい」
「・・・えっ?」
「・・・あの」
色々訪ねたいことがあるのに、散々泣きじゃくって乱れた呼吸のせいで、言葉が詰まって出てこない。
「あの・・・いつから・・・」
それでも涙を拭いながら彼の目に訴え掛けると、
「・・・ごめんな。盗み見たつもりはなかったんだ。そうだな・・・少なくとも何か叫んでいた辺りから見ていたかな。悪気は無かったんだ・・・」
と、罰が悪そうに苦笑いしながら頭を下げた。
「そんなっ・・・あなたが謝るなんてっ!!」
「だからって、君が謝ることもないよ」
頭を下げかけた彼女を止めて、彼はまた口元を弛めた。
「・・・そうでしょうか・・・?」
憎めない人好きのするその笑顔に、気づけば彼女も釣られて笑っていた。
「君は────っている方がいい」
笑顔と共にこぼれた彼の言葉は、風と波音に攫われてしまった。
「え?・・・今なんて・・・?」
彼女が、彼の言葉を聞き返そうとした時、
「七瀬ーっ!!サボりかぁ!?それともナンパかぁ!?」
と、堤防から二人へ向かって叫ぶ男性の声が聞こえた。
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