世界でただ一つの選挙

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「違います。副市長は私と市長の部下で、市長補佐は市長付きで実務をとりしきる仕事です」 「つまり実質的な市長ということですね」 「いえ。私より市長の方が偉いのです。前任のたま市長は実に貫禄がありましたよ」  山田が目を細めてたま市長を褒め称える。そこにたかが猫というあなどりは、微塵も感じられない。 「市長の仕事とは具体的にはどのような事を?」 「まずは市長室で自由気ままに過ごす事です」 「ただ市長室にいるだけですか?」 「市長がいるだけで、役所に勤める所員の気持ちがほっこりし、ストレス解消効果があるのです。私もたま市長に毎日癒されてます」  地味なオッサンである山田が、デレデレ顔でたま市長を褒め称える姿は、あまり美しいとはいえない。でもこんなオッサンが市長より、可愛い猫が市長の方が部下もやる気出るよな、という説得力には溢れていた。 「他に市長の仕事はないんですか?」 「あります。市のイベントに出席し、市民との触れ合い活動をされています。おかげで我が市は市民と役所が近い、市民に愛される市政となっているのです。市民の気持もほっこりです」  ここでVTRが流れ、たま市長がイベントで子供達にもみくちゃにされたり、お年寄りの膝に乗って撫でられる映像が写った。     
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