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烏寺黒命散
一
高枝に留まった漆黒の鴉が、月光を浴びて啼いている。
長く尾を引いた、啼き声だった。
――鴉の夜啼きは、凶事の前触れ。
そんな言葉を、ふと小野寺松音は心の中で思い起こしていた。随分昔に、父から聞かされた言葉であった。
しわがれた鴉の啼き声で俄かに騒がしくなった外とは異なり、館の奥座敷は静寂さに包まれていた。館の主、宇野義隆を上座に、主だった家臣が十二人向かい合う様に縦長に並ぶ。僅かな灯りに映るその顔は、皆一様にして神妙な面持ちだった。
時は、室町の時代。
文正二年の年明け早々、京では、管領職の畠山政長が罷免され、次いで上御霊社近辺で小規模ながらも武力衝突が起こったと云う報せは、此処若狭国宇野館にも既に届いていた。まさに、細川勝元と山名宗全が全面的に争う、応仁の乱勃発前夜。
宇野家は、若狭国土着の国人。
若狭守護武田家との縁深く、来る京での合戦に備えて武田家から上洛の要請がなされていた。否が応でも兵を出さねばならない立場にあった。
が、軍勢を整えるべく急ぐ中、新たに悪い噂が流れ込んできた。宇野家上洛を阻止せん、と山名に組する敵方が途中で待ち伏せているというのだ。
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