13人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
扉を閉めて一人になった瞬間、やっと息を吐いた。
同時に、美術室特有の油の匂いが鼻に届く。
『臭い!息ができない!』 ってみんなはいうけど、私はこのツンとするような匂いが好きだった。
一歩足を踏み入れると、土まじりの風が頬をすり抜ける。
「窓、開けっ放しだ」
揺れるカーテンを押さえながら、夕暮れに染まるグラウンドに目を向けた。さっきまで入り乱れていた野球部や陸上部の声援も消えて、もう誰もいない。
窓を閉めて振り返った時、部屋の中央に設置されている石膏像と目が合った。
色のない、悲しい目をした男性の像。
……あなたは、何を想っているの?
なんて心の中で声をかけるのは、いつもの日課。
ぶんぶんと頭を振り、よし! と一人気合を入れる。
積み上げられた机を通り抜け、教室の後ろの壁の前で足を止めた。
息を吐き、息を吸う。
わかってる。わかってはいるけど、ドキドキする。
最初のコメントを投稿しよう!