それは、夢の国で――

11/14
前へ
/14ページ
次へ
 しかし実際には聞いている奴がいた。 「小兄ちゃんも、お兄ちゃんにいなくなってほしくないんだよね」 「えっ?」  振り向くと、先ほどどこかに母親と駆けて行ったはずの友樹がいた。 「どうして」 「僕、家族がバラバラになるなんて嫌だ。でも、気持ちって変化するんだよね。クラスの奴らみたいにさ。中学に入ったら、突然いじめを始めるような奴らみたいに」 「――」  その時まで、どうして友樹の異変に気づかなかったのだろう。どうして大人になりたくないという言葉について、真剣に考えなかったのだろう。 「まずは、お前たちだ」 「――」  友樹は、背中に隠し持っていたテーマパークのキャラのぬいぐるみを取り出して笑う。その笑みは、いつものように無邪気だ。だから、その先の行動が読めていたというのに、和樹は逃げることが出来なかった。 「お前、母さんは」 「大丈夫。先に夢の国で待っているから」  ぬいぐるみの後に隠されていたナイフ。それが自分の腹を貫いたというのに、友樹は母親のことを訊ねていた。ああ、こんな瞬間まで家族の調和を考えているのか。虚しかった。そしてその努力が、まったく意味のないものだと知ってしまった。 「そうか」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加