1人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし実際には聞いている奴がいた。
「小兄ちゃんも、お兄ちゃんにいなくなってほしくないんだよね」
「えっ?」
振り向くと、先ほどどこかに母親と駆けて行ったはずの友樹がいた。
「どうして」
「僕、家族がバラバラになるなんて嫌だ。でも、気持ちって変化するんだよね。クラスの奴らみたいにさ。中学に入ったら、突然いじめを始めるような奴らみたいに」
「――」
その時まで、どうして友樹の異変に気づかなかったのだろう。どうして大人になりたくないという言葉について、真剣に考えなかったのだろう。
「まずは、お前たちだ」
「――」
友樹は、背中に隠し持っていたテーマパークのキャラのぬいぐるみを取り出して笑う。その笑みは、いつものように無邪気だ。だから、その先の行動が読めていたというのに、和樹は逃げることが出来なかった。
「お前、母さんは」
「大丈夫。先に夢の国で待っているから」
ぬいぐるみの後に隠されていたナイフ。それが自分の腹を貫いたというのに、友樹は母親のことを訊ねていた。ああ、こんな瞬間まで家族の調和を考えているのか。虚しかった。そしてその努力が、まったく意味のないものだと知ってしまった。
「そうか」
最初のコメントを投稿しよう!