それは、夢の国で――

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 それでも和樹の口から漏れたのは恨み言ではなく、同意するものだけだった。死ぬことさえ、自分で選べなかった。それを噛みしめながら、ゆっくりと倒れる。 「さて」  友樹はここでばれたら計画が駄目になると、和樹を近くのベンチに座らせ、そしてぬいぐるみを抱かせる。そうしておけば、血はぬいぐるみが吸い取ってくれるはずだ。この夢の国の十人になる和樹を、大事に守るように。 「そうだよ。みんなで、夢の国に行けばいいんだ。大人になんかならなくていい。僕が気持ち悪いだって?そんなことない。薄汚れることで大人になった気になっている、あいつらが悪いんだ」  友樹の中では、すでに内部崩壊が始まっていたのだ。そのきっかけは、中学に上がると同時に始まったいじめだ。世間とあまりに隔絶された中で生きてきた友樹は、いじめの標的として、クラスメイトからは最適だったのだ。 「何が変人だ?お前らが狂っているだけだ。やっかみだろ?ここに総てがあることを知らない。それだけなのに」  自分のやっていることと言っていることに矛盾があることなど、もう友樹は気づかない。夢の国が総てで、夢が総てになっていた。現実は虚実で、虚実が現実になっていたのだ。学校で起こっていることは、夢の中で起こる不都合なことへと書き換えられていた。
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