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「吐き気がするとまでは思わないさ。ただ、大人になってからこういう世界を知るのと、子どもの頃からどっぷりというのは違うんだろうなと思うだけだね。年間パスってものは、とっとと廃止すべきだ。しかも子連れに販売するのは禁止すべきだね。脳みそがどんどん溶けていくだけだ。どこかで気づかないと、後戻りできなくなる」
差し出されたカップを受け取らず、瑞樹はそこから中味だけを摘まみ出して、今度は傍を歩いていた鳩にくれてやる。鳩は嬉しそうにそれを啄んだが、やがて他の仲間に奪われてしまった。鈍臭い奴だ。
「こんな鳩ですら、争いの中で生きている。夢のようなふわふわした現実なんて、どこにもないよ。お前も気づいているだろ?」
瑞樹の言葉に、和樹は苦笑しかしない。彼は意見を言わないのだ。もちろん、それは家族の前だけだが、そうやって生きることが当たり前になっている。これもまた、歪んだ現実だ。
「あ、母さんと友樹だよ」
和樹は自らもポップコーンを口に放り込んで、前方を指差した。それはこの遊園地最大の売りの、大きなメリーゴーラウンドだ。そこに、楽しそうに並ぶ二人の姿がある。
「異常だな」
「マザコンだよ」
瑞樹の辛辣な言葉を、和樹はやんわりとした表現に訂正する。それが自らの役割とでも言うように。しかし、口には狂暴な笑みが浮かんでいた。
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