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平穏と日常と朝市
ディサンテの朝は早い。夜が明けるとともに城を抜け出し城下町へ行くのが日課だ。
空は青く雲は流れゆく。まだ空気はひんやりしているけれど、太陽が完全に地面を照らすころには暖かになるだろう。
徐々ににぎやかな街の人々の声が聞こえてくる。
「おはよう、アーディ」
朝市の一角で、新鮮な野菜を扱う女主人に声をかけられた。
「おはよう、おばさん。今日はなにか珍しいものはない?」
「そうねぇ……あ、この人形はいかがかしら?」
売り場の棚の上へふっくらとした腕を伸ばし、一つ小物を取り出してくる。
手の平くらいの大きさの細工。確かに人形と言われれば人形かもしれない。
「この変な人形はなに? 俺は人形遊びしないんだけど」
そう答えると、彼女は声を出して大きく笑った。
「それはそうよね。でもアーディはまだ十二歳だからまだまだ子供よ。成人までまだ三年もあるわ」
「…………」
「まぁ、それはともかく。これは遊ぶための人形ではなくて、魔除けの人形よ」
ディサンテの手を取り、その手に魔除けの人形を載せた。
色鮮やかな織物で作られた、素朴な人形は軽くて手になじむ。
「おばさん、魔除けってなに?」
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