平穏と日常と朝市

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「相変わらず勉強が嫌いなのねぇ。指導している先生に叱られないの?」  彼女はそういうと驚いたようにディサンテを見る。ディサンテはそっと目をそらした。 「良くないものを、除ける力を持つの。もう何百年も平穏だし必要ないものだから、売れないのよねぇ。だからアーディにそれをプレゼントするわ」 「いま、売れないって言ったよね? 俺はこれを押し付けられているように思えるんだけど」 「気にしない、気にしない」  彼女は笑顔でディサンテを店から送り出す。    身分を隠すのは兄や父に言われているからだ。危険はない。この国は島国で、平和に満ちている。父の時代もその前の時代もずっと争いごとが起きたことがない。  民と同じ目線で、同じ景色を見て、同じものを食べる。  人々に紛れ込むのは王族の義務。紛れ込むにはここで使う名前が必要で、ディサンテは父からアーディという名前を名乗るように指導されていた。  軽く握った手の中には、先ほどの人形がある。古い物には見えない。民芸品みたいなものなのかもしれない。  帰ったらどのあたりで作られているのか、調べてみようと思う。  目を前に向けると鍛冶屋が朝から開いていた。なんとも珍しいことだ。いつもは昼頃からのんびりと店を開けると聞いていたから。     
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