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「そんな、特別親しいわけじゃないし、何も聞いてないけど。なんで?」 「あら。奏多くん、もしかして知らない? 慶一のやつ、急にうちの調律師を辞めるって言い出したのよ」 「え……」 「次の調律師は紹介するからって、本当に急に言い出して。預けていた鍵まで返されたのよ。なにかあったのか聞いても、全然答えてくれなくて」 「辞めるって、慶一さん調律師を辞めるのか?」 「辞めるって言っても、ここの調律担当を辞めるってだけで、調律師を辞めるわけじゃないけど。本当になにも知らなかったの?」  呆然と、ただ頷いた。 「そっか。いきなりだったから、ちょっと困ったのよね。ほら、ここの教室男手がないから、力仕事とか慶一に頼んでたのよ。他にも雑務手伝わせてたし」  調律師とはそこまでする仕事なのだろうか。おまけに、室田の言葉の端々から慶一との間の親しさを感じて、苦しくなる。 「仲いいんですね」 「え?」  勝手に口をついて出た言葉に、奏多まで驚いた。 「ご、ごめん。なんでもっ」 「まあ、悪くはないわね。あんなのでも一応弟だから」 「いや、って、弟? 今、弟って言った?」 「言ったけど……。うそ、それも知らなかったの?」     
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