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「え?」
「ちょっと話できないかな?」
少しトーンを落とした声をかけられ、有無を言わさず練習室に連れて行かれた。
練習室の中に室田と二人。高校の時以来のことに懐かしさを感じるよりも戸惑いの方が勝る。
「え、えっと。室田先生? なんで」
「うーん。身内が迷惑をかけたお詫び、かな」
まあ座ってよ、と二人分のパイプ椅子を用意され、座るように促される。室田も座ったので、奏多もおとなしく座った。
「お詫びってなに? 別に俺はなにも……」
「まあ私が謝るのは筋違いなのは重々承知してるんだけどね。でも、奏多くんも悩んでいるように見えたから。うちの愚弟が何を言って、奏多くんがなにを返したとしても、奏多くんはまったく悪くないんだから、気にしないでね。って言っておきたかったの」
「何を言ってって、本当に俺は何も知らないし。何も聞いてないよ」
なんとなく、嫌な予感が背中を伝った。室田が何を言おうとしているのか、何に対しての謝罪なのか、気になる。でも、聞きたくない。
居心地の悪さを拳を握って耐えていると、「まだるっこしい話はやめようか」と室田が笑った。
「うちの愚弟が奏多くんに告白しちゃったでしょ? そのことでもし奏多くんを困らせていたんなら、身内がやらかした問題なんで一応謝っておきたかったのよ」
パイプ椅子を倒しそうな勢いで立ち上がり、唇が震えた。
「せ、先生。知ってたんですか? え、え」
「ごめんごめん。驚かせたよね。まあ、落ち着いてよ」
もう一度座るように促される。なんとか座り直したものの、心臓がドクドクと脈を打って苦しい。どこまで、なにを知っているのか。その焦りで目が乾く。
「安心してよ。詳しいことなんてなんにも知らないから。私が知ってる事と言えば、慶一がゲイだって事と奏多くんに告白したって事だけよ。それ以降のことはなにも聞いていないわ。でも、ここの合鍵を貸したり夜間の使用を許可したのは私だから、ある意味共犯かもね。そういう意味でも、謝りたくて」
まさか慶一に協力者が居るとは思わなかった。その事実と、室田の口から抵抗なく出たゲイという言葉に反応する。
「室田先生は、知ってたんですか。その、慶一さんが……」
「ゲイだってこと? 知ってたというより、最近知ったと言う方が正しいわね。だって、あいつがカミングアウトをしたのは三十になってからよ」
まさかの事に言葉が出ない。
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