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 家に帰ると、ピアノを弾かなければいけないような義務感に襲われ苦しかったので、最近は大学のゼミ室に居座って勉強をするようになった。年明けすぐに後期試験があるから、と家族には言っているが、今まで奏多がピアノよりも学業を優先したことは一度もない。きっと、不審に思われているだろうが、それ以上なにも言えなかった。  嘘に嘘を塗り固めている。自分にも周囲にも。塗り固めた壁は自分を覆い隠すほどに厚く、狭い。袋小路だと、信也が言った言葉を思い出した。  今まであまりゼミ室に顔を出していなかったが、元々かなり自由なゼミに奏多は所属していた。教授が居ない時にはゲーム機を持ち込み、たわいもない話をして、まるで一人暮らしの学生部屋のような扱いだ。奏多も直ぐに輪に入って騒ぐようになり、一番余計なことを考えずに済む時間になっていた。  考えてみれば、女装ピアニストとして学祭のステージに無理矢理立たされたのも、ミスコンに勝手にエントリーされたのも、同じゼミ仲間の悪巧みだった。  そんなことを思い出しながら勉強会とは名ばかりのゲーム大会に参戦していると、ゼミ室のドアが開いた。 「奏多、お客さんだぞ」 「は? 俺?」  ゲームの手を止め入口を振り返ると、見覚えのない男子学生三人が立っていた。  お客さんだぞ、と教えてくれた仲間に手招きされて、ゲームをやめ三人の前に立つと、彼らはおもむろに頭を下げた。
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