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「突然悪い。俺ら、一応同じ学科の三年で、俺が代表の笹塚。で、こっちが竹本と白井」 「ども」  唐突な自己紹介からはじまり、奏多も怪訝に思いながら軽く頭を下げる。 「あのさ、学祭の時ピアノ弾いてたのって、あんただよな」 「そうだけど、それがなに」  不本意ながら目立ってしまった学祭以降、学内で奏多のことを知る人物は多い。こうして時折声をかけられることも、さほど珍しいことではない。学生数の多い学内で、自分が知らない人が自分のことを知っているという感覚は、今ではもう慣れた。  特に身構えずに話を聞いていると、突然三人が深々と頭を下げた。 「頼む!」 「は? ちょっとなんだよ」 「俺らのバンドでピアノを弾いてくれ!」 「ちょ、なに? バンド?」 「今度、クリスマスイブにライブをやるんだけど、ピアノを弾く予定だったやつが、バイクで事故って出られなくなって。他のバンド仲間にも声かけたんだけど、みんな自分らのライブがあってヘルプも頼めなくって。おまえ、ピアノ弾けるよな! 学祭の時聴いたよ、めちゃくちゃかっこよかった!」 「あ、ありがと。でも、なんで俺に」 「だから、他に頼めるヤツが居ないんだ。ピアノなしでって考えもあったけど、クリスマスライブって事でピアノと合わせてアコースティックライブにしようってずっと練習してきたのに。諦めきれねえんだよ!」  笹塚が言うには、いくつかのバンドが出演する対バン形式のライブらしいが、全バンド共通してピアノとセッションしようと決めていた。ピアニストは一人で、全バンドがそのピアニストと共演する予定だったのに、その肝心なピアニストが出演できなくなってしまったのだ。 「他のヤツにも聞いたら、おまえめちゃめちゃ演奏上手いって、セッション経験もあるって聞いて。もう頼めるヤツがおまえしか居ないんだ。頼む! このとおり!」  土下座でもしそうな勢いで、三人が深々と頭を下げてくる。  学祭の練習やリハーサルでふざけていろいろな曲を弾いてたこともあり、ピアノに興味があるやつからどのぐらい経験があるのかと、興味津々に聞かれた。その事を、誰かから聞きつけたのだろう。  ゲームをしながら、やってやれよと無責任なゼミ仲間の声が飛んでくる。その言葉に勢いをつけて「頼む!」と懇願される。
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