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 ピアノ一筋だったせいか、長く恋愛というものに興味を持ったことがなかった。そんな奏多がはじめて人を好きになったのは、高校生の時。そして、その初恋の相手が今目の前にいる幼馴染の信也だった。  遅い初恋と同性に対する恋心の中で混乱した奏多は、十六歳で初めての告白も経験した。そして見事に振られたわけだが、信也のリベラルで大雑把な性格に救われ、カミングアウトしたあともこうして幼馴染としての関係は続いている。 「なんでだよ。せっかく初彼氏ができるチャンスじゃねえか」 「だから、もう俺には恋愛ってもんが必要ないんだよ。一生ピアノ馬鹿。それでいいんだって」  余計なお世話な信也の言葉に、奏多は何度目かのため息を吐いた。  勢いで信也に告白してしまった奏多だったが、それをきっかけに自分がゲイであることをはっきりと自覚した。そして、二度と恋はしないと決めた。 「身内にゲイがいるなんか、嫌だろ。第一、俺は豆腐屋の長男だっつの」 「でたよ。ファミコン」 「うっせえ」  ファミコンというのはファミリーコンプレックスの略だ。家族が好きで一緒に守ってきた店が好き。奏多からすれば当然のことだが、信也曰く奏多は重症らしい。 「家族のために一生恋愛しないとか。極端すぎるんだよ、おまえは」 「それが一番てっとり早いだろうが」
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