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姉が豆腐屋を継いでくれるとは決まったが、それとこれとは話が別だ。
たとえ自分がゲイだと分かっても、恋愛しなければ関係のないことだ。実際奏多には遅すぎた初恋以降、誰も好きになった人はいない。元々友人と遊ぶよりピアノの練習と店の手伝いを優先していたため、恋愛にも興味が薄かった。
「ま、いいんじゃねえか。たまには青春を謳歌するのも」
「二十二になって青春もクソもあるか」
「遅すぎた春ってやつだよ」
「万年冬のやつに言われたくねえよ」
「傷をえぐるな!」
信也が拳で奏多の頭を殴った。かなり痛い。
奏多の初恋は信也だったが、信也の初恋は奏多の姉である志織だった。長年の片思いだったが、告白する前に志織が結婚すると言って出戻ってきた来たとき、身内以上に驚き、そして唯一泣いたのは信也だ。志織はもうすでに立派な一児の母だが、それでもまだ完全に諦めきれてないらしく、一緒に酒を飲むと今でも未練と愚痴を口にする。
「とにかく! 断りきれなかった以上は責任もって口説かれてろ」
「だから、口説かれる気なんかねえっての」
「分かんねえぞ。話を聞く限り、相手はかなりマジだろ」
「なんでそう思うんだよ」
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