371人が本棚に入れています
本棚に追加
「だって、そいつは奏多がゲイだってことも知らずに告白してきたんだろ。てことは、自分がゲイだってことと奏多が好きだって事の二重の告白だろ」
「それは、確かに……」
奏多は真剣な表情で頷いた。
奏多がゲイであることは、信也以外誰にも言っていないことだ。そう見られるような振る舞いもしたことはないはずだ。
サクマ音楽教室で調律をしていると言っていたので、奏多に告白したと言う事は仕事先でカミングアウトしたようなものだ。もし奏多がこの事を周囲に吹聴するようなことがあれば、慶一は仕事先を一つ失う可能性まであったのではないだろうか。
「いいじゃんか。これも出会いと思って楽しめよ」
「おまえ、他人事だと思って……」
ニヤニヤと笑う信也を睨みつけたが、鼻で笑ってあしらわれた。信也の失恋を蒸し返した仕返しらしい。奏多の方が散々昔の話を引っ張り出されたのに不公平だ。
不満を顕にして黙っていると、信也が明るい声で言った。
「相手も生半可で告白したわけじゃねえし、奏多も断りきれなかった。じゃあ、俺に言えるのはひとつだけだな」
「なんだよ」
「精々楽しめ!」
白い歯を出してニカリと笑った信也に、奏多は天井を仰いだ。
「ちっとも笑えねえよ」
最初のコメントを投稿しよう!