3/17
365人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
 だが、そんな親の考えを一掃したのは長女の志織だ。奏多より六つ年上の志織は、短期大学卒業後一人暮らしをはじめ、地方銀行に勤めていたのだが、わずか二年後に結婚すると言って出戻ってきた。その時の衝撃的な発言は、今も青木家の名言だ。 ――この店は私が貰うことにしたから、父さんと母さんはさっさと隠居しろ  これには、進路は子ども達の希望に任せると言っていた両親がはじめて猛反対した。だが、姉は頑として譲らなかった。 ――父さんと母さんがいらなくなったものを、私が貰ってなにが悪いの。生活の事も考えて、克幸は銀行勤めを続けるし、私はこの店が欲しい。私のやり方で店をやりたいって言ってるの、文句ある?  昔から姉は気が強く、一度決めたことは曲げない性格だったが、さすがの啖呵に両親は呆気にとられ、隣で聞いていた奏多は笑い転げた。姉の旦那になった克幸まで、こいつの好きにさせてやってくださいと頭を下げる始末だ。  その後、姉の妊娠やら父親の怪我で右往左往することもあったが、今では落ち着き、子育ての傍ら豆腐作りの修行をしている。さらに、銀行務めの頃に貯めた貯蓄でネット通販を立ち上げ、新商品の開発にも着手。着実に自分の店にするための準備を進めている。     
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!