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「だから、なにがあって考えが変わってんだよ。なにもなかったわけじゃねえだろ。なんもなしで、おまえの考えが変わるわけがねえ!」
なんでそんな事を信也に言われなくちゃいけないんだ。
きっかけを得ては逃げ続け、きっかけを得なければ動けない自分を見透かされたようで、頭に血が上った。
立ち上がり、信也の胸ぐらをつかみあげた。
「姉ちゃんが妊娠したんだよ! 孫が生まれて喜ぶ親に隠れて恋愛楽しめって言うのか? それとも、息子がゲイだって言えばいいのか? できねえよそんなこと。なんもできない俺ができることと言ったら、これぐらいしかないじゃないか!」
勢いで怒鳴り、突き放すように信也を離した。
少ない言葉でも、今までの奏多の心境を知っている信也には伝わるはず。突き飛ばした信也は、がっくりと畳に座り込んだ。
「マジか。俺までとんだとばっちりだ……」
信也が驚いているのは志織の第二子妊娠だろう。床に座り込む信也を眺め、激情を鎮めるために息を吐いた。
「……おまえ、まだ未練あるのかよ」
「いい加減諦めてるよ。茉代も可愛いし、二人目もおめでたいとは思う。でも、それとこれとはちょっと別だ。で、おまえはそれを聞いてまた現実にやられちゃったわけか」
「うるせえよ」
畳に座った信也の隣で、奏多も胡座をかいた。
「俺だって、好きだって言えるもんなら言いたかったよ。でもさ、たぶん付き合ったとしても同じだったと思うんだよ。結局後ろめたくて続かないと思うんだよな。親に隠さなきゃいけないって思いながら恋愛するほど、俺は恋愛に興味あるたちじゃねえし。そんなん、慶一さんにも悪い。だったら、はじめから付き合うとかそんなこと、しないほうがいいんだ」
付き合って結局ダメだった、だとお試しで付き合うことと変わらない。身内を傷つけて、悩ませて、そうまでしないとできない恋なら、いっそのことしない方がいい。
「前から思ってたんだけどさ。おまえ、自分が諦めればそれで解決すると思ってんのか?」
「……なんの話だよ」
「逃げて、諦めて、そればっかりじゃねえか。そんなんで、なにが変わる?」
「信也に説教される筋合いはねえよ」
「ま。実際俺はおまえの身内じゃねえからな。だからこそ、客観的に言わせてもらう。おまえが諦めることで自分一人だけが傷ついていると思うなよ」
信也は笑った。奏多に対してではなく、自嘲するように。
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