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「君ぃダメだよ?ヒイラギさんにそんな事言っても。彼はマイペースを貫く漢なんだ、勝手気ままなように見えてその心の奥には確固とした信念を持ってる。かっこいいよなぁ。
君もあんな大人になるんだぞ」
ちょっとした演説に満足したのか、手応えありげな顔をしてマスターは彼専用のピッチャーからオイルを並々と注ぐと一気に飲み干す。一仕事したような顔をして俺の前を去って行く彼の頭からは俺の追加注文のコーヒーの事は抜け落ちている様だった。
「はい、コーヒーお待たせしました。」
忘れられたと思っていた俺のコーヒーはアルバイトのモミさんが持ってきてくれた。
忘れられていなかったことは喜ばしいが、俺はここのマスターの淹れたコーヒーが飲みたかったのであって、雇われの経験の浅い奴が淹れたコーヒーを飲みに来たわけではないのだ。
そんな俺の少しばかりとげとげした感情を知ってか知らずか、モミさんは何かを堪えるような微笑を浮かべてこちらを見ていた。
「…あっ、意外といける」
モミさんの口が裂けそうなほどに伸び、笑顔を深めた。
嬉しさはよく伝わるが、ちょっと怖い…
「今日はとても暑いので、酸味を抑えて澄んだ口当たりにしてみました。」
ドヤ顔…という物だろうか、モミさんは目まで三日月のように細めてそう言った。
俺が期待していた店長のものとは違うが、悔しいことに確かに美味かった。
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