強引すぎる北風さんとやさしすぎる太陽さん

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そんな噂を聞いたばかりだったアーシャの背筋は凍り付き、父親から使いを頼まれた時に必死で断ろうとした。それなのに、アーシャの父ときたら……。 「身近な誰かが賊にあったならまだしも、そんなのただの噂話だろう」  と、アーシャの不安な気持ちを一蹴した。渋々引き受けた使いは無事に終わったが、帰りにこんなハプニングに見舞われるなんて……アーシャの背筋はぶるぶると震えあがっていた。その時。 「……もしもし」 「ひゃあ!!」  突然背後からかかる声に、アーシャは驚き飛び上がった。恐る恐る振り返ると、背の高い男の人が口元に手を当てて、笑っている。アーシャは恐怖や恥ずかしさからか、顔を赤く染める。 「驚かせてしまい、失礼しました」 「あ、あの……」 「不審なものではありませんよ、安心してください」  彼が見せた柔和な笑顔を見て、アーシャも真似をして、ぎこちなく口角をあげる。 「雨宿りですか?」 「は、はい……」 「奇遇ですね、私『たち』もなんです。よろしかったら、一緒に休んでいきませんか?」 「……『たち』?」  アーシャは首をかしげるが、それに気づかなかったのか彼は洞窟の奥にどんどん進んでいく。アーシャも慌てて、彼の背中を追った。  追った先には小さなたき火とその上に置かれたやかん……そして、男性がもう一人いた。 「カディア、なんだよその女」     
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