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「ありがとうございます」
アーシャは茶碗と受け取り、ふーふーと息を吹きかけて少し冷ましてから一口飲む……口の中に茶葉と、今まで嗅いだことのない……まるで花のような華やかな香りがふわっと腔内に広がっていく。
「おいしいです!」
「本当ですか? お口にあって良かったです」
「本当です!何杯でも飲めます!」
「あはは、たくさん飲んだら体に悪いですよ」
三つ分の茶碗から湯気が揺れる中、最初に飲み終わったのはアーシャだった。雨に降られた少し冷えていた体が、次第に温まっていくのが分かった。
「お二人は、どこかに向かう途中だったんですか?」
「あてのない旅の途中ですよ。アーシャさんは?」
「私は、父の使いの帰り道なんです。隣町に商品の配達を……」
「そうだったんですか、大変ですね」
「……随分不用心な父親だな」
「え?」
ずっと黙っていたユスフが口を開いた。ユスフの声は、低く深みを持っていてアーシャの体の芯に響いていく。
「知らないのか、賊の話」
「あ……一応、父に言ったんですけど……私みたいな子どもっぽい奴が、お金なんて持っている訳がないから賊の対象にもならないだろうって言われてしまって」
「……賊だって、何も金目当てなだけじゃないんですよ」
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