強引すぎる北風さんとやさしすぎる太陽さん

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強引すぎる北風さんとやさしすぎる太陽さん

  「もー! 雨なんて最悪!」  少女・アーシャは叫びながら、偶然目についた洞窟に飛び込んでいく。 アーシャは商人をしている父親に頼まれ、隣町への商品の配達を終えた帰り道だった。 陽はどんどん沈んでいき、水平線のあたりでゆらゆらと揺れている……駆け足で家路を急いでいたが、急な雨に降られてしまい、仕方がなく雨宿りを余儀なくされた。スカーフを巻いていたおかげで髪は濡れずに済んだが、ワンピースの肩は少し濡れ、中に着ているズボンの裾には、少し泥跳ねしている。アーシャは重たくなったスカーフを外し、ぐちゃぐちゃに畳んでカバンにしまい込んだ。 アーシャはどんよりと重たい空を見ながら、深く深くため息をつく。急いでいたのは、早く帰りたかったからではない。最近、アーシャが暮らしている町では不穏な噂で持ち切りだったからだ。 ――曰く、女の一人歩きを狙う賊がいる その賊に遭った女性は気絶したまま心優しい二人組の旅人に見つかり、家まで介抱されながら帰ってくるのだという。そして、女性は皆同じ事を言うのだ。  ――何があったのか、さっぱり覚えていない ……と。     
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