猫の鈴

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 休日だから自分も出かければいいのだけれど、特に何をしたい予定もないし、そもそもあまり出かける気分にならない。  こんな日は、猫と戯れて過ごしたいなと、私はマモリを構いに庭へ出た。けれどそこにマモリの姿はない。  またどこかを散歩しているのだろうか。  そう思った私の視界の端に、見慣れた尻尾の先がちらついた。  庭から母屋の脇を抜け、玄関へ出られるようになっている通路の所にマモリがいる。名前を呼んだが振り向かないし返事もしない。ただ、尻尾が軽く振られた。まるで、こっちに来いと言ってるみたいに。  遊びたいなら追いかけて来いってこと?  その傲慢なわがままさまでが可愛くて、私はマモリの後を追った。だけど今日のマモリはとことん気まぐれで、追っても追っても私には尻尾しか見せてくれない。  庭から通路伝いに玄関へ、もう一方の通路を抜けてまた庭へ。それを何度繰り返したことだろう。  さすがに飽きてきたけれど、何故か足が止まらない。身体がマモリの後を追ってしまう。  庭に出て、一息つく暇もなく、また、通路の端からチラと覗く尻尾の方進みかける。  その瞬間、小さな金属音が耳の奥で響いた。  間違いない。マモリの首輪につけた鈴の音だ。  でも、どうしてその音が、尻尾が窺えるのとは反対の通路からするんだろう。  鈴だけがそっちにある訳がないし…もしかして、鈴じゃなくて別の何かの音だろうか。でもあれは確かに…。  悩む私の耳にもう一度同じ音が響いた。  何度聞いても間違いない。マモリの首輪の鈴音だ。 「マモリ?」  呼びかけるが返事はない。ただ、鈴の音がそれに応じる。  その瞬間、さっきまで私が追いかけていたあの尻尾が、ふいに地面に向けて振り下ろされた。
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