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 英語の小テストは散々だった。追試を免れればラッキーだ。テストの間も、頭の中は今朝ちーちゃんに与えられた重大な任務のことで一杯だった。愁くんが鼻血を出して、私はハンカチを彼に渡す。誰より早く。そしてリエに要注意。でも何故リエ?私と愁君は同じクラスで、彼女は隣のクラス。彼と接点はないはずだ。私の記憶では、二人が同じクラスになった事はない。リエは私のライバル?まさか、愁君は彼女が好き?そうだとしたら、大変だ。  私はずっと愁君のことが好きだ。高校の入学式の日からずっと。私の隣に座った男子は式の間中ウトウトしていた。船を漕いでは私の肩に頭を乗せる。その度に身を捩って見知らぬ男子の頭を振り落としていた私を見兼ねたのか、斜め後ろに座っていた彼は隣の男子の頭が私の肩に近づくと、パイプ椅子の足を軽く蹴ってはうたた寝する男子を起こしてくれたのだ。彼は私の王子様だ。  愁君は怪我をせず、スカートに忍ばせたハンカチの出番もなく放課後を迎えた。ちーちゃんの勘違いだったのかと思い帰ろうと廊下に出た時だった。バチンッと音がしたかと思ったら、私の斜め前方で愁君が倒れていた。どうやらバレーボールをして遊んでいたところ、ボールが顔に当たったらしい。ムクッと起き上がった愁君の高い鼻からは、一筋の血が流れていた。 今だ! 私は一目散に彼の元へ走り寄ってハンカチを手渡した。紫色の花柄いっぱいのハンカチを。 「愁君、これ。鼻血出てるよ」 彼は鼻の辺りを触り、血のついた手を眺め 「本当だ。ありがとう」 そう言って私の手からハンカチを受け取った。少し冷たい愁君の手が、私の手に触れる。王子様に触れたのはもちろん初めてで、私の心臓は激しく動いていた。  今日は手を洗えない。
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