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「パパと離婚することになった」 先に食卓のテーブルについていたママは、開口一番そう言った。ここのところ喧嘩をしていなかったのは、もう感情をぶつけ合う程の関係ではなくなっていたということだったのか。 「パパはもう出て行ったわ。千代には謝っといてって」 何も言わずに出ていったのか。胸が少し、痛んだ。 「ごめんね。千代、受験生だっていうのに」 「そんなことより、これからどうやって生活していくの?お金は?」 ウチはそんなに裕福ではないはずだ。それにママは専業主婦だ。 「パパから養育費を貰うことになってる。千代が大学を卒業するまで。だからお金のことは心配しないで」 「だけど…」 「それに、ママは来週からおばあちゃんの八百屋で働くことにしたの。一応働いておかないと、老後が不安だものね」 ママの顔は思うより穏やかだ。 「ショックじゃないの?」 「何が?」 「パパと離婚すること。ショックじゃないの?」 ママは立ち上がって紅茶を入れ始めた。 「全くショックを受けていないわけではないけど、スッキリした気持の方が大きいかな」 レモンの香りが部屋を満たす。 「ああ、これでもう悩まなくていいんだって思うとね、解放感でいっぱい」 「本当に?」 もちろん、と笑いながら、ママは私の目の前にも紅茶の入ったカップを置いた。 「不安よりもこれから始まるシングルライフへの期待感の方が大きいのよ。まあ、しばらくは千代にも苦労かけちゃうけど…ごめんね」 私は何も言えなかった。慰めることも怒ることもできず、ただ湯気の立つ紅茶を見つめることしかできなかった。
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