塀の上

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塀の丁字路を左に、夕方のお日様が沈む方向に進んでしばらく、お婆さんが営む小さなお店がある。 お店の前で吾輩が声をかけるとお婆さんが歩いてくる。 「あらおひげちゃん、今日は遅かったねぇ。ほらごはんだよお食べ。」 吾輩はおひげちゃんではないが、いつもここのお婆さんはごはんをくれる親切な人だ。吾輩はお婆さんのごはんを食べ始める。 その間お婆さんは吾輩を撫でるわけでもなく優しく見守りながらずいぶん昔に家を出た子どもの話をする。 三角の耳をピンと立て、さもあなたの話を一言一句漏らさず聞いていますよ、という態度をとりながら、吾輩は会ったこともない人の話など耳に入れてはいない。 執拗に撫でてくる鬱陶しい人ではなく、ごはんをくれる親切な人の独り言を食事をしながらうんうん喉を鳴らし聞き流しているだけだ。 食事がおわるとお婆さんは満足そうに2、3度吾輩の頭を撫でて 「またおいで。待ってるから。」 と優しく笑うと店の中へ戻っていった。 お腹もいっぱいになったことだ、そろそろ食後の睡眠をしようではないか。 それではみなさん、おやすみなさい。
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