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自宅のドアを開けると、「おかえり~」という声と共に、母が出迎えてくれた。 どうやら父はいないようで、少し安堵した。少し安堵した自分の心に、罪悪感も過っていた。 家を見渡していた私を見て、「良い家だったんだけどねぇ~」と、母は明るく振る舞うように言った。家を見渡さなければよかったと、心の中で後悔した。 「今日、ご飯は?」 と、気まずい空気を断ち切るために母に尋ねる。 「ああ、どうしようかね~」 「鮭の切り身にクラッカーとマヨネーズ乗っけて焼くやつあるじゃん?あれ、久々に食べたいんだけどな」 学生時代、私が好んで食べていて、母親も自分の発明のように、嬉々として出してくれたものだった。少し変わったお袋の味が、あの日に私を連れ戻す。 「ちょっと材料ないかも・・・ハンバーグとかでもいい?」 「ああ、全然大丈夫だよ」 「すぐに作るから、お風呂にでも入ってて」 母のもてなしに従い、風呂場に向かった。 そこには、私が学生時代に使用していたシャンプーがそのまま置いてあった。 私が学生時代に癖毛を気にしていたために、母親が通販で発見して、買っておいてくれたものだった。 思ったよりは効かなかったが、それでも母親の気遣いに応えたくて、ずっとそれを買ってもらうように頼んでいた。 「このシャンプーも引っ越しで捨ててしまうのかもな」と思った刹那、この風呂に入るのも、今日が最後なんだろうという実感が湧いて、寂しさが込み上げてきた。
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