プロローグ

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プロローグ

カイトは、王宮(パレス)へ続く吊橋の前で独り、その触書を熱心に見つめていた。 ――士官兵募集―― 悲願である不凍港を得るために南下政策を取る北の大帝国ボスコアーレと立国以来幾代に渡り国境で睨み合いと小競り合いを続けていた南の大帝国クレディアナは、常に北の前線に兵を補充するために兵を募集し、士官兵候補を募るための御前試合も開催しているが。 3月に1度は開催されていて関心も薄いのか、道行く者達は触書には見向きもせず通り過ぎるばかりだ。 辺りを見回したカイトは、咎める者が居ないことを確かめてから。 「誰も見ないなら俺が頂いていきますよ…」 覚えるのも面倒だと、日時・詳細が書き連ねてあるその貼り紙を勝手に剥がして丸めると、懐の中に了い込んだ。 『御前試合だろ?――上手くすれば奴を為留められる』 考えていたよりずっと楽に事が運びそうだ。 笑みで唇の端が歪むのを俯いて何とか堪えてから、早足で人波をすりぬけて歩きだす。 滞在するための常宿を探そうと、ようやくこの街に入って初めて、賑わうメインストリートに立ち並ぶ店を眺め始めた。
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