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肩に掛からない位の真紅の髪を後ろでひとつに束ねて、銀色のブレストプレートを纏い、髪と同じ色の燃えるような緋のマントを翻らせるという、何とも勇ましい姿ではないか。
「私も、って…君も仕官するのか?」
「そうよ。御父様ったら、私も十四になったのに、御兄様達みたいに戦の御供に加えてくれないんだもの」
カイトは少女の答えに顔を強張らせた。
「戦のお供とは穏やかじゃないな」
「何よ。急に改まっちゃって。そうよ。私、ミラーセレス=レダ=クレディアナ。ライオネル皇帝の五男二女の末っ子よ。――そういうあんたこそ誰」
「カイト=レスト…――っ!」
口走ってから、本名を素直に名乗ってしまった事に気づいて口篭るカイトに、ミラーセレス皇女は、
「しつこいかと思えば今度はだんまり?…あぁ!私に仕官の口利き頼もうったって無駄だから諦めなさい」
「――仕官?」
「私がクレディアナ皇女って解った途端、突然態度が改まる族が多いのよ。カイトもそのクチよね?」
呆れたカイトは、思わず苦笑いした。
「違う違う」
『御前の父親の命を奪いに来た』と正直に言えるはずもない。
すると今度は肩を落とし、がっかりした様子で、
「やっぱりね。女の子がこんな格好ばかりしてたら、みんないい顔しないよね」
ミラーセレスは、引いていた手を離すと、くるりと振り返ると、初めてカイトの姿を真正面から眺めた。
上背のある――と言うのでは足りない。兎に角大男だ。
肩にやっとかかるくらいの金髪を無造作に靡かせて、濃いセピア色の瞳は優しい笑みを湛えて居る。
「そんな事ないだろ。女性剣士大いに結構じゃないか」
「よかった。じゃあ、私が売れ残っちゃったら、カイトのお嫁さんにして貰うから!」
「ああ、いいよ」
カイトの真の目的を知る筈も無いミラーセレスは、安請け合いした言葉を疑いもせず嬉しそうに、
「よぉし!一緒に頑張ろうね。…って言っても私、相手がカイトでも手加減しないからね」
「俺も仕官がかかってるからな。本気だぞ」
二人は再び並んで、歩き始めた。
闘技場からの観衆のざわめきが次第に近くなる。
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