65人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、あれ?」
慌ただしく教室を出たのに、ヒマはそのまま私の手を引き保健室とは反対の方向へズンズン歩いて行く。
「どこ行くの? 大丈夫? 足痛くないの?」
焦って聞くと、ヒマが押さえていたひざから手を離してペロリ。 舌を出して私を見た。
そういう表情も、なかなか可愛いのだけれど、見ると血なんてぜんぜん出ていない。
「これで治療完了!」
鞄から取り出した絆創膏を、ひざにぺたぺた。 適当に貼って笑ったりしてる。
「ねぇミミ! ついてきて! いいところに連れていってあげる! アーンド、おもしろい子紹介してあげるよ!」
言いながら校舎の南棟と北棟を繋ぐ渡り廊下の端。 空に向かってのびた細い非常階段をクルクルと駆けあがっていく。 まるでダンスでも踊っているかのように、私の目の前でひらひらとヒマのスカートの裾がはためいた。
錆びた鉄製の階段をのぼりきったところにあったのは、小ぢんまりとした踊り場。
とは言っても、学校の建物じたい古いものだし、殺風景なコンクリートを取り囲むようにして手すりがつけられているだけの狭いスペース。
そんな場所から身を乗り出すようにして、階下の中庭をのぞき込んでいる男子が一人。
背中を向けているから、よくはわからないけどたぶん長身。
アプリコットオレンジの髪色が太陽の光に透けてみえた。
最初のコメントを投稿しよう!