三上 美海

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その子が私たちの気配に気づいて、ふわりと振り向く。 「おっ! ヒマ、いらっしゃい!」 柔らかな表情で、にっこりと笑いかけてきた。 「どう? よくね? この場所」 背後の柵に寄りかかるような体勢で言う。 赤茶色の前髪の下で、得意げにほほえむ二重の瞳。 「風が通って気持ちよさそうだけど、でもちょっと狭すぎ。 それにたぶん冬は寒いよ」 ヒマの言葉を聞いて、相手が不満そうに頬を膨らます。 「なに、その言い方。 かわいくないわね。 学校じゅう探してやっとベストなとこ見つけたのにな。 人の苦労もしらずに……あれ? だれ? その子」 指摘されてビクリ。 身が縮む。 お呼びじゃない? ですよね? ヒマが私の肩に手をかけ、体を引き寄せながら笑って答えた。 「友だち! ミミ! 〝三上 美海〟だよ!」 「ふぅん」 茶髪男子は前かがみの姿勢で、私の顔を軽くのぞき込むと、ふっと笑う。 なんだか名前を笑われた気がした。 ミミという名前だけでも我慢ならないのに。 できるなら改名したいくらいなのに。 〝みかみミミ〟なんて、どう考えてもミが多すぎだろう。 何を考えてつけたんだろうか、両親。 恨むよ。 「〝目黒慎二〟 です! 今日から、よろしく」 私の目の前で、にこにこと顔をほころばせながら相手が名乗った。 目黒……って、え? うそ。 じゃあ、この人がもしかして皆が噂をしてた〝メグロ君〟? 思った瞬間、頭にかぁっと血がのぼって、心臓がバクバク音をたてはじめる。
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