三上 美海

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コンプレックスは名前だけじゃない。 恋愛経験ゼロの、不毛な中学時代を送ってきたこと。 だけど彼氏がいなかったのには、それなりの理由がある。 恋愛をしてみたいという気持ちは、もちろんあって。 高校生になったらダイエットして可愛くなって素敵な男子とつき合いたい! そう思い受験勉強も一心不乱に頑張った。 自分の偏差値よりも高くて、塾の先生にはそうとう無理をしないと入れないと宣告されたけれど、それでも必死になって目指したのは、かっこいい先輩が多くて男女交際も盛んだという噂を聞いたから。 念願かなって、憧れていたこの学校に入学できたのはいいけれど、周りを見渡せばヒマちゃんをはじめ美男美女ばかり。 なんだろう、この場所は。 校則がわりと緩めなせいか何なのか、生徒の見た目レベルが異常に高い。 特に取り柄のない、チビぽっちゃりな私が太刀打ちできるような世界ではないことに気づく。 初日にあんなに舞い上がっていた気持ちは、入学三日目にして現実を悟り、既に撃沈されていた。 あぁダメだ。 やっぱり高校生活も暗黒のままか。 これじゃあ全てをあきらめ、犠牲にしてきた中学時代が報われない。 とは思うものの、ただでさえハンデ背負って生きている私に、明るい青春生活なんてハードルが高すぎたんだ。 そもそもの話。 こんな私に与えられた贅沢といえば、せいぜいガラス窓ごしにサッカー部が練習する姿をこっそり眺め、うっとりするくらい。 ……もちろん、それだってじゅうぶん幸せなんだろうけれど。 「〝つくらない〟 んじゃなくて 〝つくれない〟 んだよね。 欲しいとは思っても」 そんな私の、ため息まじりのぼやきを無視し、ヒマちゃんが突然、腕をひっぱってきた。 視線の先は、いま目の前を通り過ぎていった上級生っぽい二人連れ。 「ねぇ、ああいうの憧れない? 自転車二人乗りとか。 うちの中学チャリ通禁止だったんだよね」 うん。 うらやましいとは思うよ。 「だけど私ちょっと変だから、無理かも」 「変?」 「なんていうか、自意識過剰っていうか」 「自意識過剰? ナルシストってこと?」 ヒマちゃんが不思議そうに目を見開く。
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