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廃ビルと猫
家の近所に廃ビルがある。
俺が知る限り、もう何十年も放置されていて、一応立ち入り禁止になっているため、近所の人間は近づかないが、廃墟マニアの類がたまに入り込んでいるようだ。
その廃ビルにうちの猫が入り込んだ。
うっかり開け放した窓から外へ出て、俺が追いかけるのを面白がるように、ビルの敷地内へ逃げ込んだのだ。
子供の頃から不気味という印象しか持っていない場所なので、気乗りはしなかったが、愛猫のためなら仕方がない。
猫の名前を呼びながら敷地内へ足を踏み入れる。と、甘えるような声が上の方から聞こえてきた。
テラス状になったビルの二階部分から猫が顔を覗かせている。名前を呼んで降りてくるよう誘ってみるが、猫はそこから動かない。
上へ上るしかないようだが、廃ビルの中になど入りたくはない。それで悩んでいると、外壁に鉄製の梯子が架けられているのを見つけた。
外付けの避難梯子だろうか。錆びついているが、引っ張ってもまったくぐらつかないから、上っても大丈夫だろう。
それでもかなり慎重に、一段ずつ踏みしめて梯子を上る。やがて二階に辿り着くと、愛猫が甘えた声で俺を迎えてくれた。
こいつを抱えて、どう梯子を降りようか。その方法を思索していると、何やら下方から人の声が聞こえた。
見てはいないが、声だけで数人いる。話の内容から察するに、このビル目当ての廃墟マニアのようだ。
居合わせたからどうということもないだろうけれど、もしも仲間扱いされたら中に連れ込まれる可能性もある。
慌てて物陰に身を潜め、上って来る連中が屋内へ消えるのを待った。
賑やかな声が近くなる。どうやら全員二階に上ったようだ。
俺はろくに見なかったけれど、入り込める場所があるらしく、そちらに賑わいが移動していく。…その騒がしい声や足音がふいに途絶えた。
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