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ボクのパパは血統書つきの、立派な生まれだったらしいけど、乱雑な過交配とかいうので、遺伝子がひっくり返ったのか、生まれつき左前足がふにゃふにゃしてるんだ。
まあ、家の中では三本足で走り回っているけどね。
そんなボクを、きっと抱っこして連れていってくれるんだね。今日は。
短めのリードをいつもの青いくびわに結わえつけ、青いストールにくるまれたボクは、珍しく口紅をつけた姉ちゃんに抱っこされた。
「準備いい?お祭り行くわよ~」
「はーい。着替えたよー」
お母さんと、姉ちゃんの声。
さあ、いよいよ出発!
ちょっと怖いけどね。
「お父さん、お土産買ってくるわ」
お父さんに告げたあと、がちゃりと玄関ドアの音がして、ボクら三人(二人と一匹?)はお祭りに出発した。
住宅街は暮れかけて、四次元のような少しよどんだ赤い夏の太陽が沈みかけ、漆黒に近い瑠璃色の闇を星ぼしが彩る。7時半くらいの時間だね、今は。
道々の戸建ての庭からは、地の虫の声。少し生ぬるい外の空気にキィー、キィー、同時にスィッチョン、スィッチョンと、BGMを付けてくれる。ふうん、家の近所ってこんな風だったんだね。もう子供達の帰ってしまった幼稚園もある。おお、新聞屋さんを通り過ぎた。いつも配達ありがとう。
何があるのかな?お祭りって。美味しいものとか、ほかには何が?
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