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  「こんにちは」  彼は今日も、いちばん奥の席で古びた本を読んでいた。  星野(ホシノ)という名前だと、最近聞いた。  挨拶をして隣へ座り、抱えてきた本を読みはじめる。  例の幻想文学の続きは、まだたくさんある。だんだんと難しくなってきて、1日に半分ほどしか読めないが、それもいい。  やがて物語に没頭し、文字ではなく描かれた情景を見る。  本を開いている間は、主人公達と旅ができる。見たことのない景色、知らない生き物、そこに生きる人達の息遣い。  引き込まれる先は、色鮮やかな世界が広がっている。  もっと先をと、ページをめくろうとしたとき、指先に痛みがはしった。 「!」 「大丈夫?」  声に、星野が居た事を思い出した。  図書館だ。  星野が心配をしているから、慌てて手で隠す。 「紙、切れただけ、です」 「切れたって?血、出てる?絆創膏もってるから、手を洗ってきたら」 「あ、いいえ。大丈夫…」 「でも古い本は大体ばい菌が居るから、破傷風とか」
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