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   星野に知られるわけにはいかない。  星野だけでなく、家の外の誰にも。  教わった訳でも命じられた訳でも無いが、きっとそうだ。  自分は、普通の人間ではないのだから。  図書館を出て堀を越えて、細い路地の入り組む辺りに来て、大きく息を吐いた。  強ばる背中と同じように震えている。手で手を強く握り込む。 「ッ!」  痛みに開いた指先に、黒々とした傷。右手、中指、いちばん上の節を、斜めに切っている。  いくら見ても、割れた奥はただ黒く、何も無い。強く押さえてもそこはふさがらず、痛みだけをはっきりと伝えている。  『ばんそうこう』は、きっと意味が無い。  仕方なく歩きだした背に、後悔と泣きたいような気持ちがのしかかる。  太陽ばかりが照らす道は、車がそばを通り過ぎていくだけだ。  きっと暑いはずなのに、いくら歩いても自分の身体からは汗など出ない。 「……ごめんなさい」  家は遠い。  呟いたけれど、何に謝ったのかは分からなかった。  
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