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  「傷か」  見せるまでもなく、手を取られる。  傷は、主が触れれば跡形もなく消えた。  皮膚の下まで確かめるように何度もゆっくりと指先を触られ、強張っていた気持ちが緩んでいく。  とらわれているのはきっと、小さな、取るに足らない事だ。主の傍に居れば、そう思える。  ぽつぽつと、図書館での事を話すと珍しく、主は優しく微笑んだ。 「気に病むならば、しばらく行くな」  外は暑い。と、冷たい手が頬に触れる。  何故か、涙がこぼれた。  主が笑んでいるのに。撃ち込まれたままの銃弾のように、どこか痛い思いが残る。  頬を拭われる。  涙はこんなに出るのに、何故、血は流れないのだろう。  
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