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  「熱心だな」  夜半、月明かりの差し込む部屋は明るい。  白い壁を不思議な色にするなか、いつの間にか主が隣に居た。  指先まで上質な磁器のように白い肌。黒い上着に、ゆるく巻いた白銀の髪が流れる。  主はいつも変わらない。初めからそこに居たように寛いでいる。  彫像のように整った姿を、表す言葉は見つからない。  畏れる程に美しい主が、穏やかに僕を見ている。それだけで幸せだ。  主にだけは、言葉を気にせず話せる。  久しぶりに戻ったのも嬉しく、次々と話をすれば、ゆったりと笑まれた。 「お前が望めば、全ての言語さえ理解するようにしてやれるものを」  困った子だとばかりに、頭を撫でられる。  主の力ならきっと、それくらい簡単な事だろう。  心遣いは嬉しいが、ここまで覚えてからでは困る。いつも教えてくれる宙に報いたいから、学びたいのだ。  小さな子を理由にすれば、苦笑された。 「ならば、良い場所がある」 「……?」 「見てみるか」  瞬きをした次の瞬間、暗いなかへいくつも壁のようなものが並ぶ場所に居た。  広く天井は高く、大きな窓からは月光と街灯が、ぼんやりと並び立つものを照らしている。  それが本棚だと判るのに、時間はかからなかった。  ただ、あまりの数に、言葉が出ない。広い部屋の端までを埋める、大きな棚と様々な本たち。  主を仰げば、満足げに僕を見ていた。  不意に額へ触れられれば、頭の中へ地図と家からの道のりが流れ込んでくる。  戸惑っているうちに、部屋へ戻っていた。 「明日、訪れてみるといい」 「はい……ありがとうございます」  たくさん、本がある。それだけで、夢のようだった。  家の外。自分で行ける場所。  詳しく訊こうとしたとき、すっと身体の力が抜け、主に抱き留められた。労うように抱かれ、主が何か呟く。  不調は全て見抜かれる。  ソファーへと導かれ、そのまま処置が始まった。 その夜は、主が言うには眠るまで顔が緩んでいたらしい。  
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