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   本が沢山ある場所は、図書館というらしい。  それを知ってからは、よく通うようになった。  歩いて1時間かかるけれど大した事じゃない。散歩は楽しく、細い路地が入り組んだ旧市街などは、何度通っても飽きない。  二階建ての複雑なつくりをしたその図書館は、見たことの無い物や景色の載った本が、たくさんあった。  少しだけ、自分のよく知った言葉で書いてある本もある。哲学書や宗教学などの難しいものばかりだが、見るだけでも嬉しいものだった。  話す相手も出来た。  図書館でよく見かけるその人は、いつも奥の窓際席で、色々な本を読んでいた。  本の種類は様々で、大きな図鑑や、続きものの途中の巻だけ、掌ほどの本をいくつも詰んでいる日もあって、来るたびに気にするようになった。  近所によく居る大学生のようで少し親しみを感じ、歳も近く見えた。  通いはじめてまだ日が浅いある日、幻想文学を一冊読み終え、次の巻を取りに行ったとき。  同じ本に手が出て、驚いているうちに譲ってくれたのが、彼だ。 「どうぞ」  日なたのような笑顔だと思った。  夕方、彼はまだいつもの席に居た。  不思議そうに顔を上げたところへ、読み終えたばかりの本を差し出した。 「ありがとう、ございました」 「……きみ、いい人だね」  本を受け取って、彼は屈託なく笑った。  それから、会うたびに声をかけられるようになった。  静かな図書館では、二言三言しか話せないし、上手くはない言葉でしか返せなかったが、初めて友人が出来たようで、嬉しかった。  そうしているうち、暑さは増していった。  
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