1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
とある1LKのマンションの一室で、男女が食事をしていた。机の上には、大きなボウルに入ったポテトサラダが乗っかっている。
それを二人は黙ったまま食べるだけで、一言の発さない。
男は高田といい、女は藤田という。互いのことを「高田くん」「藤田さん」と呼び合っている。そんな二人はただいま同居中だ。いわゆる同棲だ。
同棲をしている男女の部屋とは思えないような重い空気が流れていた。
(今日は高田を殺す日。これが最後の晩餐)
藤田は心が悟られないよう、普段通りに振る舞った。
「高田くん、ごめん。味付け間違えた」
「やっぱりだあ!」
高田は平常心を意識して言った。実際の心の内は、
(最後の日もこれかよ。天然ぶりやがって。まあ、今日でこの生活は終わりだからな)
であった。
「サワークリームとマヨネーズを間違えた」藤田は微笑み、一口食べた。
(何がサワークリームとだよ!普通間違えるか?天然ぶりやがって。そうやって男をたぶらかして、浮気してたんだろ?)
「いつもの藤田さんだね」高田は心の声を飲み込んだ。
(何がいつもの私?これ、演技!気づかないの?まあ、あと数時間の我慢。女は皆、女優)
「高田くんは本当に優しいね」(偽善者が!)藤田は高田を褒めた後に、毒づいた。
傍から見れば、ただのイチャイチャだ。しかし、この日二人は互いの事を殺そうと計画を立てていた。それ故に、内はメラメラと燃えていた。
付き合い始めの頃は違う意味でメラメラと燃えていたが、互いの浮気をきっかけにその意味が変わった。
ボウルのポテトサラダも残り一口になろうとしたその時、突然和室から、ドンッ、と大きな音がした。二人は目を合わせた。
「高田くん、何の音?」(私、そんなの仕掛けしてない)
「藤田さん、わからない」(なんだ?)
身に覚えのない事に、二人は状況が飲み込めずにいた。
恐々と和室の襖を開けたその時、二人の目に人影が入った。
「よくもイチャイチャしやがって!」
二人は目を合わせた。目の前にいたのは、二人の共通の友人である石橋であったからだ。
手には銃。二人は焦った。
「石橋さん、なんでいるの?」高田の問いかけに石橋は、何も答えることなく引き金を引いた。
訳も分からないうちに二人は死んだ。
「高田くん、好き!」石橋は自らに銃口を向けた。
大きな音のみが静かな部屋に響いた。
地縛霊と化した三人の同居生活は、永遠に。
最初のコメントを投稿しよう!