1.『Penny Lane(ペニーレイン)』での出逢い

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 アドラー以外にも好きなアーティストや曲を言い合ってみると、二人の音楽の趣味は驚くほど似ていた。  藍子はかなり年上の須佐の影響で音楽に興味を持ったせいか、年齢の割には音楽の趣味が渋くてマニアックだ。周りの人間と好きな音楽の話が合わないこともよくある。藍子は久し振りに自分と同じ趣味を持っている人間に出会えたのが嬉しくて、夢中になって龍司と話をした。  音楽の趣味が合うからか、須佐と瞳の色が似ているからなのか、心の中の声が聞こえない人間だからなのか。もしくは他に理由があるからなのかはわからないが、藍子は初対面だと言うのに龍司と話していると、何とも言えない安心感を覚えた。  藍子は慎重な性格で、よほど親しくなった人間以外には自分のことはあまり話さない。でも、その何とも言えない安心感のせいなのか、藍子は龍司に質問されるまま、音楽のこと以外にも自分が通っている大学や占いのバイトのことなど、いろいろと話し込んでしまった。  何て話しやすい人なんだろう……と藍子は思った。  龍司は藍子が話すどんな話題に対しても興味深そうに耳を傾けて、話の合間合間にゆっくりとした口調で質問をする。そして、藍子の話を上手く広げてくれるのだ。  どちらかというと口下手な藍子だが、龍司と話をしていると、まるで自分が話し上手な人間なのではないかという錯覚さえ覚えてしまうほどだった。 「――そう言えば、私、アドラーのリズのサインが書いてあるCD、持ってるんです」  藍子は龍司と話をしている内に、ふと須佐が前に藍子の誕生日にプレゼントしてくれたアドラーのリズのサインCDのことを口に出した。 「すごい。俺、リズのサインCDなんて見たことないよ。それ、どうしたの?」 「高二の時に誕生日プレゼントでもらったんです、アドラーを薦めてくれた人に。――もしなら、今度持ってきます」 「いいの? 大切なものなのに」 「はい」  藍子は笑顔で頷きながら、自分はいつの間にこんなに機転が効くようになったのだろうかと思っていた。  リズのサインCDを持ってくると約束をすれば、少なくとももう一回は龍司に会える。  また龍司に会えると思うと、藍子は嬉しくなった。
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