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フラれた直後は相当落ち込んだが、占いのバイトは順調だし、今日は龍司に出会えたし、むしろフラれて正解だったのかもしれない……。
(――助けて)
藍子は急に立ち止まった。藍子の頭の中に、突然誰かの「心の中の声」が飛び込んで来た。
(――誰か、助けて!)
さっきよりもハッキリと、藍子の頭の中に声が響いた。
誰かが心の中で助けを求めている。
藍子は普段、他人の心の中の声がむやみに聞こえることはあまりない。心の中の声が聞こえないようにコントロールする術は知っている。気を抜いてしまった時やふとした拍子に聞こえてきてしまう程度だ。
でも、恐怖や怒りなどの極端に強い感情の心の中の声は、コントロールしていても頭の中に飛び込んで来てしまうことがある。
今聞こえてきたのは、恐怖の感情の声だ。
藍子は歩いている自分の横に建っている、古い雑居ビルを見上げた。
あのビルの二階に誰かが閉じ込められている。
そして、心の中で必死に助けを求めている。
目元と口元を布か何かで覆われているらしく、声を出すことができないようだった。頭の中に飛び込んできた声のトーンからして、自分と同い年くらいの女の子だろう。
(――あの娘、さっきめぐみと一緒にいた娘だ!)
藍子は声を上げそうになった。
どういう事情なのかはわからないが、あのビルの二階にめぐみの友達が閉じ込められているのだ。目元と口元を塞がれているということは、きっと、ただ事じゃない……。
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