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「それは……」
藍子が黙っていると、龍司が代わりに口を開いた。龍司はなぜか手に新聞を持っていた。「下を歩いていたら、そこの窓から新聞が落ちてきたんです。返そうと思ってここに来たら部屋の鍵が開いていて……」
藍子は龍司の言葉にハッとして、部屋の窓に目をやった。
確かに窓の脇には新聞が山積みにされていて、下に落ちてきてもおかしくないような状態だ。
窓も全開に開いている。
(――新聞なんて落ちてきてないのに)
藍子は龍司が手に持っている新聞をもう一度見た。
龍司が手に持っている新聞は、本当に二階の窓から小雨の降っている道路に落ちてきたかのように、少しシワになって濡れていた。
藍子は一瞬、本当に窓から新聞が落ちてきて、新聞を返すためにビルの二階の部屋に入り、偶然めぐみの友達を発見したのではないだろうかという錯覚を感じた。
でも、違う。
確かに藍子は龍司に、めぐみの友達が「心の中で助けを求めていたから」と二階に一緒に来るように言った。
(――私のこと、かばってくれたんだ)
「ああ、なるほど。そうだったんですね」
刑事は龍司の言葉に納得したらしい。頷いてメモを取りながら他の刑事のところへ行こうとした。
龍司は刑事を引き留めると、何やら話を始めた。
藍子が何を話しているのだろう、と思っていると、刑事と話を終えた龍司が戻ってきて、藍子に折り畳み傘を差し出しながら言った。
「警察に話はつけておいたよ。今日はもう帰って良いって。後は俺が警察の相手をしておくから」
「でも……」
「カサは次に会った時にでも、返してくれればいいよ」
龍司は藍子の手を取ると、カサを握らせた。
「はい。あの、ありがとうございます」
藍子は龍司のカサを受け取って頭を下げると、雑居ビルの外に出た。
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