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「――そうだ! あの、カサありがとうございました。後、昨日、いろいろとありがとうございました」
藍子は昨日のお礼と借りたカサを返していないことを思い出した。
自分のカバンから昨日借りた折り畳み傘を取り出すと、龍司に手渡した。
「うん、女の子、無事で良かったね」
龍司は藍子からカサを受け取ると、自分のカバンの中にしまった。
そして、再び藍子に向き合うと、口を開いた。
「昨日、『心の中で助けを求めていたから』って言ってたけど、あれは本当?」
藍子は単刀直入に言われてビックリし、思わず龍司から目線を逸らしてうつむいてしまった。
「あの、それは……」
「本当、なのかな?」
「それは……」
藍子はどう答えれば良いのかわからず、うつむいたまま言葉を濁した。
龍司はイスから立ちあがると藍子のそばに行き、身体を屈めて藍子の顔を覗き込んだ。
「大丈夫、怖がらなくても良いよ。誰にも言わないし、本当のことを知りたいだけなんだ」
藍子はすぐそばにいる龍司の瞳の色が、薄い茶色から濃い緑色に変わるのを見て、須佐のことを思い出した。
そしてさっき、自分が龍司のことを「心の中の声が聞こえることを話しても、須佐みたいに受け入れてくれる人」なのかもしれないと思ったことも思い出した。
「――本当です」
藍子は顔を上げると、小さな声で答えた。
龍司は藍子の返事を聞くと、イスに座り直して再び藍子と向かい合うと、言った。
「そうすると、昨日の女の子の心の中の声は聞こえるけど、俺の心の中は聞こえない、そうじゃないかな?」
龍司の言葉に藍子はさっきよりもビックリして、思わずイスから立ちあがってしまった。
「どうして、それ、知ってるんですか?」
例えばめぐみのように「霊感が強い」とか龍司のように「雨男」とか、藍子と同じ特殊な体質を持っている人間の心の中の声は聞こえない、ということを知っているのは自分と須佐だけのはずだ。
どうして龍司は「条件付きで心の中の声が聞こえない」ということを知っているのだろうか。
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