3.彼はいずこへ

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「事情、ですか?」 「うん。でも、これから話すことは誰かに口外してほしくないんだ。さっきも言ったけど、藍子ちゃんのことは誰にもいわない、だから、藍子ちゃんもこれから俺が話すことは秘密にしておいてほしい。約束してくれる?」 「はい」  藍子は頷いた。  龍司も誰にも言ってほしくない「秘密」を言ってくれるというのであれば、自分の体質がバレないことに関しては信頼できるだろう。 (――君が他人の心の中の声が聞こえると言うことは、僕と君だけの秘密にしようか)  藍子は龍司の言った「秘密」という言葉を聞いて、ふと須佐と初めて会った時のことを思い出した。  須佐は自分のピンチを救ってくれた後に、「他人の心の中の声が聞こえることは、二人だけの秘密にしよう」と言っていた。  結局、龍司に自分の体質のことがバレてしまい、須佐との約束は破ってしまったことになる。  藍子は須佐との約束を破ってしまったことと、須佐以外の人間とまた「秘密」を共有することに後ろめたさを感じた。  でも、言い訳になるかもしれないけど、めぐみの友達が監禁されていることを知って、そのまま何もなかったように通り過ぎてしまうなんて、あの時の藍子にはどうしてもできなかった。  龍司は藍子が頷くのを見ると、カバンからポーターの革の名刺入れを取り出し、名刺を一枚藍子に手渡した。藍子が名刺を見てみると、そこには「天尾(あまお)探偵事務所所長 天尾龍司(あまおりゅうじ)」と印刷されてあった。 「あの、探偵さんなんですか?」  藍子は昨日の龍司の警察とのやり取りと、普通の人間では考えられないくらい記憶力が良かったことを思い出した。  あの時、「この人は一体何者なんだろう」と疑問に思ったが、やはり普通のサラリーマンをやっている人ではなかったようだ。 「うん、今は俺の名前になってるけど、元は違う人が所長だったんだ。俺は高校の時に元の所長と知り合って、事務所の手伝いをするようになって、それがきっかけで今、所長をしているんだけど。――ところで、藍子ちゃんは今までに自分と同じように心の中の声が聞こえる人間に会ったこと、ある?」 「いえ、ないです」
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