1.『Penny Lane(ペニーレイン)』での出逢い

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 その時、さっきめぐみが「絶対『いる』の!」と言っていた店のドアが開く音がした。  藍子は(もしかして、本当に幽霊……?!)と驚いてドアの方を振り返ったが、入ってきたのは普通の人間の男だった。  藍子はドアから入ってきた男に目が釘付けになった。 (――えっ? リズ?)  男が入ってきた店のドアには、藍子が大好きなイギリスの男性四人組バンド「アドラー」のポスターが貼ってある。ポスターの中のボーカルのリズと入ってきた男があまりにも似ていたので、藍子は一瞬、リズがポスターから出てきてしまったのではないか? と錯覚してしまったのだ。  男は二十代後半から三十代くらいだろうか。仕事の帰りらしく、仕立ての良さそうなスーツを着て、ポーターのビジネスバッグを持っている。体格が良く、短く切った髪や肌や瞳の色が薄く見えるので、日本人以外の血が混ざっているのかもしれない。  藍子は男のことをもう一度良く見た。男はリズに似ていると言えば似ているが、良く見ると、そこまでそっくりではなかった。でも、辺りに漂う空気というか雰囲気みたいなものが、ライブ映像などで観るリズにとても良く似ている。 「――おおっ! 龍司(りゅうじ)、久しぶり!」  カウンターにいるバーのマスターの久住(くすみ)が、親しそうに男に声をかけた。龍司と呼ばれた男は軽い身のこなしでカウンターの席に座ると、久住に優しそうな瞳を向けて、笑顔を見せた。 「久しぶり、久住さん……」
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