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テーブルの上に置いてあるめぐみのスマホの着信音が鳴った。
「あっ、友達来たみたい、行くね」
めぐみはスマホとカバンを持つと椅子から立ちあがった。
「……あっ、うん、またね」
藍子は我に返ってめぐみの方を向くと、軽く手を振った。
立ちあがって藍子を見下ろしていためぐみは、なぜかニコニコと笑みを浮かべながら、藍子の方に顔を寄せると小声で言った。
「かっこいいじゃん! あの人」
「えっ?」
「この間、彼氏と別れた時はどうしようかと思ったけど、あの人の方が絶対かっこいい! 良かったねー、良い人と出逢えて」
めぐみは藍子が龍司に見とれている、と勘違いしたらしい。
「違う違う! あの人、アドラーのリズに似てて、それで、つい……」
「恋のキューピットでもやってあげたいところだけど、友達待ってるし、ごめんね! 藍子、悪いけど一人で頑張って。じゃあ、ね!」
めぐみは笑顔のまま手を振ると、さっき「絶対『いる』の!」と言っていたドアのところを用心深く通りながら、店を出て行った。
藍子が窓から覗いていると、窓の外をめぐみとめぐみの友達が並んで通り過ぎて行く。
めぐみの友達は藍子が着ている服と同じような紺地に細かい花柄の入ったシャツワンピースを着ている。
藍子は自分と同じ服かと驚いたが、よく見ると違う。めぐみとめぐみの友達が並んで歩いているのを見てみると、やっぱりめぐみの派手な服装が際立って見えた。
藍子が手を振るとめぐみは手を振り返し、友達は軽く会釈をした。
二人の姿はやがて夜闇に紛れて見えなくなった。
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