41人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ
「この間、藍子ちゃんと一緒にいた、友達のめぐみちゃんだね」
「わあー、私の名前、知ってるんですね! 藍子が教えたのかな?」
めぐみがまた嬉しそうな表情をしながら、藍子の方をチラリと見た。
龍司と初めてバーで会った夜、藍子は確かに龍司にめぐみのことも話した。
そう言えば、めぐみは自分が龍司に見とれていると勘違いして「藍子、悪いけど一人で頑張って」と言ってバーを後にしていたっけ……。
めぐみの嬉しそうな表情を見ると、めぐみは藍子が龍司に上手いこと話しかけて仲良くなったと思っているのだろうか。
「あの、めぐみ、この方、天尾さんと言うの。バーのマスターの久住さんの知り合いで、紹介してもらって……。めぐみの友達を一緒に助けたのは、この方なの」
藍子は慌ててめぐみに龍司のことを紹介した。
「そうなんですね! 本当にありがとうございました。友達が今度直接お礼をしたいって言ってました」
めぐみは龍司に向かって丁寧にお辞儀をした。
「そんな、お礼なんて……。それよりも友達は大丈夫だった?」
「はい、おかげ様で! 今日はいつも通りに仕事に行ったそうです」
「良かった。――じゃあ、仕事があるから、これで。またね、藍子ちゃん、めぐみちゃん」
龍司は軽く手を振ると、駅を出て行った。
藍子は龍司の後ろ姿が、駅の人混みに紛れて行くのをジッと見つめた。
人混みの中で、龍司の背中だけが何故か目立って見えるのは気のせいだろうか。
久住のバーで龍司を初めて見かけた時も、どこか人を惹きつける、思わず目が行ってしまうような雰囲気を持っている人だな、とは感じたけど……。
「――藍子!」
藍子はめぐみに名前を呼ばれて我に返った。
「何? めぐみ」
「何? じゃない! また、見とれてたでしょ?」
「違うよ、めぐみ。見とれていたわけじゃあ……」
めぐみはまた自分が龍司に見とれていたと勘違いしているのだ。
藍子は否定しようとしたが、言葉が止まってしまった。
自分では「見とれていない」と思っていたが、さっきの自分はどう考えても誰がどう見ても龍司に見とれていたのではないだろうか。
龍司を初めてバーで見た時もそうだ。
バーのドアから入ってきた龍司を、最初は自分の大好きなアドラーのリズに似ていると思って注目したが、やっぱり自分はめぐみの言う通り、見とれていたのではないだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!